Experience Hendrix / Jimi Hendrix


「ジミヘン」といえば、私より5歳ほど年上のロック・ファンにとって忘れることができないスター・プレイヤーであるはずだ。「彼の前では全てが色褪せる」というCDの帯に書かれたキャッチフレーズそのままに、このアルバムには現代ロック・ミュージックの様々な原型があらわれている。

この編集盤には有名な曲、「パープル・ヘイズ」「ヴードゥー・チャイルド」、デビュー曲「ヘイ・ジョー」などが収められていて、ジミ・ヘンドリックスを知るためには格好のCDだ。それぞれの曲には英語によるオリジナルの解説とともに、日本語訳がブックレットになっている。ここには例えば、ジミ・ヘンドリックスが自分の歌について、こう思っていたとある。

デビュー曲「ヘイ・ジョー」を録音するときのこと、ジミは自分の声質が気になると訴えていたそうだ。「全く初めてだよ。実際にレコード録音で歌っていうものを歌おうとしたのは」「怖くて歌えなかったんだ。チャス(ジミ・ヘンドリックスのプロデューサーであるチャス・チャンドラーのこと)は俺にちゃんと歌わせたけど・・・。上手く歌えばいいなあって祈るような気持ちだったさ。でも、やっぱり出来ないんだ。言葉を棒読みしているだけだな。ギターが俺の本分さ。俺の声は、音楽的にやろうとしていることをわかってもらうためのおまけみたいなもんさ」。

アルバム「エレクトリック・レディランド」に収められた、ボブ・ディランの曲のリメイク「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」に関しては、「自分で書いた曲みたいな感じがしたんだ・・・(自分の曲と)一緒になってしまうんだ」「ディラン自身にもこれとおんなじような感じがしてどうしようもないんだ。彼をいいと思わないやつは、彼の曲の歌詞を読んでみるべきだな。人生の喜びと悲劇にあふれてるよ」と語っている。

また自分の音楽そのものについても、印象的な言葉が次のように記されている。「気分によって違った色を思い浮かべるだろ?嫉妬は紫とかいう具合にね。俺の場合、紫は怒り、腹立たしさの色だね。緑は妬みかな・・・」「独自の音っていうものを出すために自分自身の曲っていうものを書かなきゃならないんだ。いろんなところに言葉を書き留めたさ。紙マッチにナプキンに・・・何にでも書いたよ。曲ってのはどこにいても浮かんでくるんだ。生きているかぎりは、全てを体験することができるんだよ。いろんなことが目の前で起こっていくんだ。想像力があれば、曲なんかできあがってしまうもんさ。俺はよく空想する時間を持つようにしているけど、座って夢を思い浮かべるっていうことは素晴らしいことだぜ!どんなことでも目の前に現れてくれるんだから・・・曲もついでにね」「ブルースを演奏するのは簡単だけど『ブルースを感じる』のはそう簡単にはできないね。音楽的専門事項よりも知っておかなければならないことがあるんだよ。それは、音そのもののことをわかっていなきゃなんないし、音と音の間にどんな音色が聞えているかを知っていないとだめなんだ」

このアルバムは1997年にユニバーサルビクター株式会社から発売された日本盤のCDだが、オリジナルはより以前に発表されたと思われる。ウッドストック・ライブの伝説的演奏「スター・スパングルド・バナー」も収録されている。

1998.12.1